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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)395号 決定

抗告人 伊藤甲子郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告の趣旨及び理由。別紙記載のとおり、

二、当裁判所の判断。

抗告人を原告とし新潟県知事北村一男を被告とする、新潟地方裁判所昭和二十九年(行)第二四号土地区画整理異議却下処分取消請求訴訟事件における被告の訴訟代理人が、被告新潟県知事によつて指定されたその所部の職員であること、右指定代理人が同事件における訴訟書類提出のため又は準備手続期日、口頭弁論期日のため同裁判所に出頭したのは、その公務の執行としてであることは記録上明らかであり、被告行政庁と同裁判所とが同一市内に在ることは当裁判所に顕著な事実である。しかしながら、かりに被告行政庁と右裁判所とが近接しているため、右指定代理人において、旅費規程上裁判所に出頭するにつき所属庁より日当を受けることができないとしても、それは当該職員とその所属庁との間の内部の関係であつて、原告と被告との間の関係とは別である。すなわち被告行政庁が、あるいは所部の職員中一定の給与を支給している者を代理人に指定し、個々の出頭毎には日当を支給しないか、あるいは一定の給与を伴わない非常勤職員又は弁護士を代理人に指定又は選任して出頭毎の日当又は包括的な報酬、費用を支払うかは、その内部の関係であつて、被告行政庁としては、そのいずれの方法を採ることも可能であるけれども、訴訟に応訴し代理人を裁判所に出頭せることが、被告行政庁にとり費用を要するものであることには変りはない。又、被告行政庁がその指定代理人の出頭日当を訴訟費用に計上するのは、その指定代理人のためにするものではなくて、被告行政庁自身のためにするものであり、これによつて取立てた費用は、指定代理人に交付すべきものではなくて被告行政庁の歳入に編入されるものである。右のように被告行政庁がその指定代理人に出頭毎の日当を支給するか否かはその内部の関係であるところ、訴訟費用の裁判は被告と原告との間の関係において費用負担の限度及びその帰属を定めるものであるから、被告行政庁において指定代理人をして裁判所に出頭させている以上、右指定代理人に対する内部的な日当支給の有無にかかわらず、民事訴訟費用法の定めるところにより、その出頭日当を訴訟費用に計上できることは当然であり、原決定には、抗告人主張のような違法はない。

その他記録を精査しても、原決定にはこれを取消す事由となるような違法な点がないから、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤直一 坂本謁夫 小沢文雄)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し更に相当な裁判を求める。

抗告の理由

原決定が新潟地方裁判所昭和二十九年(行)第二四号土地区劃整理異議却下処分取消事件の被告新潟県知事の指定代理人の日当を訴訟費用として計算算入しているのは不当である。

右被告の指定代理人は公務員であつて右事件の法廷に出頭し訴訟行為を為したのは公務の執行に過ぎない而かも県庁所在地に於て同地に在勤する公務員が公務を執行したのであつて右被告は之に対し日当を支給すべきではない又公務員個人の立場から見ても証人等として公務の執行以外に於て法廷に出頭した場合と異り何人に対しても日当を要求すべき筋合ではない。

依て右被告の指定代理人の出廷日当及之と同様の書面提出日当等は之を訴訟費用額から除外し更に相当な裁判を為すべきである。

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